映画批評「皮膚を売った男」

ニートの独断と偏見による評価

4.2 out of 5 stars (4.2 / 5)

ストーリー

 シリアでのこと。ラッカ出身のサム・アリは、恋人へのプロポーズの言葉を「国家反逆罪」にあたるとして不当逮捕されてしまった。担当兵士が知りあいだったことから運良く逃亡できたサムは、恋人の元へ向かう。恋人は縁談の真っ最中だった。恋人に一緒に亡命しようと声をかけるも、縁談相手に話に割って入られてその場から立ち去ってしまうサム。

 1年後、そのまま結婚をした夫の嬉しそうな顔と無表情の恋人が写る、2ショット写真を眺めていた。ひよこの養殖場で惰性で働き、美術展覧会に忍びこんでは接客用のデザートを盗む食いする日々を送っていた。
 シリア難民だとバレてしまった夜のこと、偶然そのことを知った美術家のジェフリーに声をかけられる。「君の背中が欲しい」サムを芸術作品にしたいというものだった。

 依頼を受ければ、ビザを発行してくれるという。サムは恋人に会いたい一心で、自分が芸術作品になる決断をするのだった。

スタジオ・キャスト

配給

クロックワークス

監督

  • 監督・脚本:カウテール・ベン・ハニア
  • 映画監督:クリストファー・アウン

キャスト

  • 俳優:ヤヤ・マヘイニ / 役:サム・アリ

 facebookでシリア人俳優募集の公募を知り、この映画の出演が決まったといいます。シリアとカナダを行き来しながら子供時代を過ごし、大人になってからヨーロッパで法律や俳優業を学んだ経歴を持ちます。

  • 俳優:ケーン・デ・ボーウ / 役:ジェフリー・ゴドフロワ

 ベルギー出身の、1988年から映画で活躍しているベテラン俳優です。

 『ロフト』(08)などが代表作となります。

世界観

 芸術は不思議なものが多いです。物理的にそんな恰好になれない、関節の可動域を無視した銅像も多く存在しています。ドガの「14歳の踊り子」などは、理解できないほどの変態さ気持ち悪さを感じざるを得ません。珍しいものや、歴史を感じさせるもの、どうかしているものが、付加価値をつけて芸術となることもあります。

 サムの背中に書かれた芸術品は、変態であり、世界情勢を感じさせるものであり、どうかしています。そしてサム自身は人間です。
 ミケランジェロ、バンクシー、そして彼の背中が美術館に並ぶという世界観が異常さを感じさせます。生命保険などの公告にも使われるいやらしさも感じます。価値とは何なんでしょう。

 サムはちょいちょい周りを混乱させます。サムを物のようには扱えません。家族や恋人を芸術品になることで、傷つけることもあります。実際にお金が入ってくると感謝をしだす家族や、夫を庇う恋人の姿をみて、心を乱すこともあります。その不安定さに、みていて揺さぶられます。最後はハッピーエンドで終わるので安心です。

 中東の社会問題も取り上げていて、いままさにカオスなことになっている情勢を考んがえさせられます。中東が混乱してくれれば、一路一帯が進まないので中国への輸出制限が効果を示してくれます。一方で、現地の方にとってみれば、ますます不安定な生活になります。ヨーロッパ各地で壁が建設され、亡命も難しいでしょう。

 芸術とは何でしょうか。価値とは何でしょうか。世界情勢の問題も取り入れながら、芸術の価値を示してくれる傑作なのではないでしょうか。


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